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「アイホのじじい」



「アイホのじじい」 作・ニャムゴルフ


アイホのじじいと呼ばれているじじいがいた。なぜかというとそのじじいはいつも「アイホ~」と言っているからだ。 一体アイホとは何なのか?

人々は、よくじじいのウワサをしていた。


「あ!来たわよ。アイホのじじいが」 「今日もアイホーって言ってるわね」

「あいつ、頭がどうかしてんじゃないのか?」

「あまり関わらないでおこうよ…」


アイホのじじいはいつも昼ごろになると町に現れた。

八百屋に行ったり、本屋さんに行ったりした。

たまに「アイホ~」と言いながら・・・。


じじいは竹やぶの向こうにある家に住んでいた。

竹やぶの向こうはめったに人が入ることのない、もっさりとしたところだった。

でも、じじいはそこに住んでいた。

暗い竹やぶの向こうに。


ある夜、じじいの家を一人の男の子が訪ねてきた。


「あのー、すみません。・・・アイホのじじいさんですか?」

「・・・ああ・・・アイホのじじいと呼ばれてるのは、わしじゃ。」

「あの、お話伺いたいんですけど・・・。」


男の子は中学生くらいの年齢で、パジャマ姿でメモ帳とペンだけを持っていた。


「別に構わんのじゃが・・・なぜこんな時間に?ご両親は心配せんのか?」

「あ、それは大丈夫です。親には言ってありますので・・・。すみません、寝る前にどうしてもあなたのことが気になって、家を飛び出してきちゃったんです!」

「ほほー。だからパジャマなのか・・・」


じじいは、まあ入りなさいと言って男の子を家の中に招き入れた。


「アイスコーヒーで良いかの?」

「あ、いえ、お気遣いなさらず!!」

「いいや、いいんじゃ、とにかくアイスコーヒーを飲みなさい美味しいから。」

「あ、じゃあ・・・ありがとうございます。」


男の子はアイスコーヒーを飲んだ。苦くて顔がしわくちゃになりそうだったか、なんとか堪えた。


「で、あの。本題なんですけど・・・」

「うん」

「おじいさんがいつも言ってる、アイホ?って、何なんですか?」 男の子は、怒られるか?とハラハラしながら聞いてみた。

もう手汗とか震えがかなりヤバかった。


じじいは言った。


「みんな、アイホのじじいとわしを呼んでいるが・・・

   ありゃアイホじゃなくて、''アキホ''だ。アキホ、と、言っているのだ。」 え?


男の子はびっくりして、開いていた自分のメモ帳をパタリと閉じてしまった。 「アキホ?」 「秋穂」

「人の名前ですか?」

「さぁな。わしにも、人かどうかわからんのじゃが・・・名前であることは確かだ・・・」 男の子はさっぱりわからず困惑してしまった。

このじじい何を言ってるんだ? 「まぁ、君になら教えてやってもいいじゃろう。見るからに君もへんな子じゃ。パジャマでこんな時間に訪ねて来おって・・・。ハッハッハ、まあ君のようなへんな子だからこそ、見せてやるのだ。」

「はあ・・・。」

「君はさっきこの家に来るまでになにも見なかったかね?」

「え・・・?特に何も見てません。」 「そうか、じゃあもう一回外に出てみるといい。」


玄関を開けると外から夜風が一斉に入ってきて気持ちがよかった。

じじいは男の子を連れて、家から出た。


男の子の目にはたくさんの妖怪が映った。

きれいな女性のような感じの妖怪が・・・


「うわー、なんかたくさんいますね・・・・。これなんですか?」

「秋穂じゃ・・・」

「アキホ?これが、アキホかぁ・・・。」


妖怪のいる竹やぶは淡い光に満ちており、心地いいんじゃよ。


そうですか・・・。


ところで君、名を何というんじゃ?


あ・・・僕はあきらです。おじいさんは?


え?わしはアイホの・・・


そうじゃなくて、本当の名前です。


・・・わしの本当の名前は・・・




「あ!!」

ジリリリリリリリ!!

「ハア、ハア・・・・・。」


あきらが飛び起きたそこは、自分のうちのベッドだった。


「あ・・・・夢か、びっくりしたー・・・・」

「あきら、もうお昼よ!起きなさい!」

「はーい!」


今日は土曜日・・・あきらはおつかいを頼まれて八百屋に来た。

地元の奥様方がたくさんいて、にぎわっている。


「えーと頼まれたのは、にんじんと、たまねぎと・・・。あ!」


そこにいたのは、アイホのじじい。


「あらやだ・・・アイホのじじいよ。」

「あの人いつまでこの町にいるつもりかしら・・・。」


アイホのじじいは安売りのかぼちゃを手に取って、「アイホ~」と言った。

いや、よく聞いてみたら・・・


「アキホ・・・」


と、言ってるかもしれない・・・・




あきらはなんだか我慢できなくなって、じじいの隣に駆け寄った。





「あの、それ、アキホ・・・ですよね、アイホじゃなくて・・・」





奥様たちはびっくりして動きを止めた。


「やだ、あの子ったら・・・アイホのじじいに話しかけるなんて!」


「あの子が初めてじゃない?あのじじいに話しかけたのって…。」





じじいは、あきらの言ったことに特別驚くような様子もなく、

ただにっこりと笑った。





「そう、アキホじゃ。秋穂は、どこにでもいるんじゃ・・・だから、話しかけているんだよ。」



(やっぱり夢じゃなかったんだ)とあきらは思った。




「あきらくん。わしは、秋穂のじじいじゃ。アキホのね・・・」


「僕はあきらです。」


「わしは秋穂のじじいじゃ。」


「僕はあきらです。」


「わしは秋穂のじじいじゃ。」


「僕はあきらです。」


「わしは秋穂のじじいじゃ。」


「僕はあきらです。」


わしは秋穂のじじいじゃ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









アイホのじじい❇おしまい


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